内向的なWEBディレクターが自分の「強み」を活かす方法
ゲストライターの山田Uさんの記事をお届けします。山田さんは、雑誌のライティングから始まり、編集、WEBディレクション、WEBプロデュースと、クリエイティブ業界で20年以上活動してきました。そんな山田さんが考える内向型ディレクターの仕事の取り組み方についてご紹介!
目次
自分を良く知ることが、良く働くための条件━━。
古くから言い習わされてきたことだと思います。P.F.ドラッカーが強調する「人の強みを活かす」というのも同じことでしょう。最近では、うまく働く・生きるためにはどうしたら良いかを科学的に分析しても、その結論は、自分を知ることに尽きる、となっているようです(エリック・バーカー著『残酷すぎる成功法則』等)。
筆者は、自分を知るためのひとつのモデルとして、「内向型・外向型」という考え方が役に立つと考えています。このコンセプトを通して、WEBディレクターが良く働くための戦術を考えてみたいと思います。
1.内向型・外向型とは?ある解釈
内向型・外向型という分類は、性格分析の古い手法です。始まりは、かのユングだそうです。100年も前の人ですね。その後も、いろいろな人がいろいろなことを言っていますが、学術的に明確にして唯一の定義はなさそうです。それでもざっくりイメージすると、下記のようになります。
内向型の傾向
- 大勢の人に混じるより、ひとり、もしくは良く気心が知れた人といる方が好き
- 邪魔されずに没頭できる仕事が好き
- 混沌とした状況が苦手
- 物静か、控えめ、と言われる
- 他人と議論を戦わせるのは好きではない
- 考えてから話す傾向がある
- 世間話より、関心のある話題について深く、少人数で話したい
外向型の傾向
- 大勢の人と居ても苦にならない、楽しい
- 考えるより先に行動していることが多い
- スポットライトを浴びる立場で居たい
- 社交的と言われる、友人/知人が多い
- 多くのことが同時進行しても苦にならない
- 聞いていることより話していることの方が多い
人にこうした傾向があることは、誰もが経験的に知っていることではないでしょうか。もちろんそれほど単純に分類できるものではないでしょうし、おそらく皆、グラデーションの中にいるのだと思います。
2.外向型が優れているのか?
ここで少し気になるのが、どうも今の世の中、外向型がもてはやされているのではないか、という点です。
誰とでもうまく付き合え、魅力的で、大勢の人の前でも緊張せずに話せ、混沌とした状況でも落ち着いて良い判断ができる。……そんなWEBディレクターがいたら、惚れてしまいますね:-)
しかし、それに異を唱えた人がいて、多くの人がこれに賛同したようです。きっかけは、このTEDトーク及びその著作です。
↓スーザン・ケイン 「内向的な人が秘めている力」 | TED Talk
内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える (講談社+α文庫) | スーザン・ケイン
<https://www.amazon.co.jp/dp/4062816350/>
ケインによれば、「内向型の人には、複雑な問題に取り組んで答えを出したり、歴史に残る優れた芸術作品を生み出したりする力がある」ようです。ニュートンやアインシュタイン、ジョージ・オーウェル、スピルバーグ、グーグルのラリー・ペイジなども、内向型だったといいます。
そしてその能力こそが、現代の世の中で必要とされているものなのではないか、というのがケインの指摘です。
この指摘は、個人的な経験から、非常に納得がいくものでした。そこで、筆者が長らく取り組んだ、WEBディレクターという職業について当てはめてみます。
まず、デザイナーやプログラマ、フロントエンドエンジニア等々、クリエイター、エンジニアと呼ばれる人は、基本的にひとりで作業をすることになります。それを気に入って続けているということは、どうやら内向型の人が多そうです。
そしてWEBディレクターも、そうしたクリエイター職あがりの人が多いように見えます。会社の立ち位置や規模によってさまざまだと思いますが、いわゆるWEBプロダクションでは、それが顕著です。
そうした内向型の人がディレクターをすると、どうなるか。苦しいことが起きるケースを見てきました。
- クライアントとのコミュニケーションが、辛い
- クライアントやクリエイターの板挟みにあって、うまく回せない、辛い
- きちんと考えて、計画的に進めたいのだが、状況がそれをゆるさない、辛い
- 関係者が多く、未来が見えず刻々と移り変わる混沌とした環境が、辛い
- 苦しい状況になったとき、自分で背負い込んでしまい、辛い
- リスクを重く捉え、その責任を感じ、未来に不安を感じ、辛い
もちろん、スーザン・ケインが言うように、内向型のメリットもあります。
- いろいろなことを感じやすく、これをものづくりに活かせる
- 関係者の立場や感情を感じることで、良い手を打てる
- プロジェクトを理路整然と進めることができる
- 複雑な問題に取り組める
- 責任感がある
- リスクを感じ、先回りして手を打てる
デメリットの裏返しですね。言い換えれば、内向型ディレクターも自分を活かす道がある、ということです。
3.人は変われるのか
そうだとすると考えたくなるのが、そういった気質は変えられるのか、という点です。メリットを活かし、デメリットを無意味にするように、人は努力によって、成長によって変われるのか。
例えば、緻密に考え、設計し、完璧なプランを示すという内向型的な特性を活かしたまま、多くの人と快適にコミュニケーションを取ることができるようになるのか。
本質的には人は変わらない、というのが今の科学界のコンセンサスでしょう。生まれ持ったものと幼少期の環境でかなりの部分が決定していて、根本的に変わることはない。もちろん、実際は二分できるものではなくグラデーションでしょうし、両向型、という分類もあります。それほど明確なものではありません。これまで書いてきたそれぞれの特徴も、少し単純化しすぎています。しかしいずれにせよ、人が持っている、核となるような部分は簡単に変わるものではない、ということは言えるのだと思います。
4.もしあなたが内向型ディレクターだったら
では、内向型の人ひとりひとりがどう考え、どう行動すべきか?私論を書けば、自分を知り、成果を生み出せる働き方を探す、という態度を真摯に続けていくしかない、となります。
強みを活かすために、例えば自分ひとりでやるような仕事を追求するか。
デメリットを、メリットとして活かすためにこつこつと仕事の仕方を改善し続けるか。
あるいは、仲間と一緒に仕事をすることで、自分のデメリットを無意味にするか。
もちろん、努力によって苦手なことを克服することも、重要なことかもしれません。企業のマネジメント側は、社歴が長くなると、クリエイターやエンジニアに対してディレクター職やマネージャー業務を求めることが多いでしょう。それは合理的な面がありますし、また結果として花開くことも多いと思います。ただ、内向型の人にとっては、苦手なことが多い業務です。もしそれが気質からきていることならば、自分を無視したやり方を自分に強いてはいけない。内向型をダメなもの、変えるべき性質と捉えてはいけない。内向型には、内向型のリーダーシップの取り方がある、というのが、ここまで挙げてきた先人達の意見です。
言い換えれば、外向型優位の世の中にあっても、内向型を恥じたりダメに感じたり、変えるべき性質と捉えたりする必要はいっさい無い。それはひとつの強みであり、活かすべき性質。……そのことさえ理解すれば、おそらく、自分の活かし方が見つかるのではないかと、そう思います。
5.最後に
最後に、冒頭に挙げたドラッカーの、人の強みに関しての言葉を引用しておきます。
「成果をあげるためには、人の強みを行かさなければならない。弱みを気にしすぎてはならない。利用できる限りのあらゆる強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを総動員しなければならない」
(P.F.ドラッカー『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』ダイヤモンド社)